【あ、くまちゃん】
 ミアはベッドの上に鎮座したくまのぬいぐるみを見て、ため息をついた。
 今日、ミアの12歳の誕生日に、おばあちゃんがくれたものである。骨董屋で買ったもので、ずいぶん昔に作られたものらしいが、汚れや傷みはなく、まるで新品のようだ。
 ぬいぐるみかぁ…。ミアは内心、がっかりしていた。もっと、大人っぽい物がよかったのに。例えば、パソコンとかさ…
「ま、けっこうかわいいから、いっか。くまちゃん、よろしくね」
 ミアは言った。すると、くまのぬいぐるみがもぞもぞと動き出したのである。
「ひっ…!?」
 ミアは息をのんだ。くまのぬいぐるみは動き続け、ベッドの上に立ち上がった。そして、驚くミアを見ると、背中をそらして「ふはははは…」と笑い、背中をそらしすぎてバランスを崩し、倒れた。
「うっ…」
 くまのぬいぐるみはすぐさま立ち上がり、咳払いをした。
「オレさまは、このくまに乗り移った悪魔だ!どうだ、驚いただろう」
「うげ、げ・・・ほんとに!?」
「ふははは…そうだ。しかも偉大な魔法で、お前の願いをひとつだけ、叶えてやるぞ」
 ミアは思慮深い子どもだったので、驚いてはいたが、すばやく考えをめぐらせた。何かの本で読んだことがある。悪魔との取引は注意しないといけないって…きっと恐ろしいことになっちゃうんだわ。それなら──
「気持ち悪いから、出てってよ。わたしは、願い事なんて別にいいから」
 ミアは、はっきりと言い放った。
「なにっ!?」
 悪魔は驚いて、しばらく固まっていたが、おどおどしたようになって、こう言った。
「オ、オレさまの名前を当てるだけで、なんでも願いがかなうんだぞ」
 それを聞いて、「それなら簡単かも…」と、ちょっと興味がわいたミアだったが、それでも用心して、断った。
 すると悪魔は悲愴な顔になって、ミアに話し始めた。
「こうなったら、恥を忍んで話してやるぜ。聞くも涙、語るも涙の物語さぁ。
 ずいぶん昔の話だけどよぉ…実はオレさま、ちょっといたずらが過ぎて、この“くま野郎”に封じられちまったんだ。だから今は情けねぇことに、魔法も使えねぇ有様さ。でもよぉ、ちゃんと反省したら、元に戻してもらえるはずだったんだ。ところがオレさまを封じた奴は、オレさまのことを忘れてどっかへ行っちまったんだ。ひでぇ話さ。ただ 一言、オレさまの名前を呼んでもらえたら、魔法が解けるようになってるのによぉ!
  オレさまはそのときからず〜っと箱に入ったまま、何もできなかったのさ。骨董屋なんかを流れ流れて、今日やっと、おめぇに出会ったというわけさぁ…」
 くまのぬいぐるみは…もとい、悪魔は、モコモコのかわいい腕で、目頭を拭った。
「そうだったの…。長い間、たいへんだったのねぇ。それで…えーと、つまり、わたしがあなたの名前を呼んであげれば、自由になれるのね?それで魔法が戻ったら、願いを叶えてくれるってことか」
「さすが姉さん、物わかりがいいぜぇ〜!」
 悪魔はうれしそうに飛びはねた。
「でも、いたずらが過ぎたって言ってたけど、また悪いことするんじゃないでしょうねぇ?それだったら、封じられたままの方がいいのかも…」
 ミアが言うと、悪魔はあわてて言った。
「そ、そりゃあ、昔の話さぁ!オレさまは何年もくら〜い箱の中で、ひとりぼっちで反省したんだぜぇ?たのむよぉ、もう悪さはしねぇと約束する!」
 くまのぬいぐるみの姿で懇願する悪魔がかわいかったので、ミアは笑って言った。
「わかった、信じる。名前呼んであげるよ。で、なんていう名前なの?」
「それは言えねぇんだ。ちゅうか、覚えてねぇ!」

 それから、二人の生活が始まった。
 悪魔のことは、大騒ぎになりそうなので誰にも話さないことにした。
 ミアは、学校に行ったり、友達と遊んだりする合間に、悪魔と話しながら名前を考えた。
「ポチ、チョコ、タマ、シロちゃん」
「違うぜぇ〜、もっと、かっこいい名前さぁ」
「なによ〜、くまちゃんだって、覚えてないくせに〜」
「くまちゃん、ってなんだよぉ?」
「きみのこと。名前がないから、そう呼んでるの!」
 夜はベッドの中で、眠くなるまで考えた。
「たろう、はなこ、さちこ…」
「ぜんぜん違うぜぇ、オレさまはヨーロッパ生まれなんだ…おい、聞いてんのかぁ?」
 悪魔が見ると、ミアはもう、眠っていた。
「ぅうん…くまちゃん…」
 ミアは寝ぼけて、悪魔をぎゅーっと抱きしめた。
「お、おい!何しやがるんでぇ…おめぇ…なんだ、仕方ねぇなぁ…」
 悪魔はぶつぶつ言っていたが、そのまま眠りについた。

 しばらくそんな毎日が続いた、ある日のことだった。
 親が出かけていて、家に誰もいなかったので、ミアと悪魔はリビングでテレビを観ていた。悪魔はテレビを観て、「世の中変わったなぁ〜」と、驚いていた。
 車のCMが流れた。黒い閃光、シュバルツ。本物の黒をご用意しました──
「…シュバルツだって」
 ミアがつぶやくと、悪魔がぴくっと動いた。
「今、なんて言った?」
「シュバルツとかいう、車があるんだってさ。車、好きなの?」
 その言葉を聞いて、悪魔は稲妻に打たれたような衝撃を感じた。
 ──そうだ、オレさまの名前は…シュバルツだったんだ…!
 体中に力がみなぎってくるのがわかる。魔法が戻ったのだ。これでやっと、この“くま野郎”の中から抜け出せる…!そうすれば──あ、そうか…
 そうすれば、こいつとも別れることになるのか…。
 悪魔はミアを見た。出会ってから短い間だったが、ずいぶん仲良くなった。
 一緒にいると、おもしれぇんだよな…。寝るときは、アレだしよぉ…
「くまちゃん、どうかしたの?」
 ミアがきょとんとした顔で言った。
「いや、なんでもねぇよ〜」
 悪魔は何事もなかったかのように言うと、ミアのひざの上に座った。
 もう少し、このままでいよう…
「なによ〜、急に。どうしちゃったの?」
「いいじゃねぇかあ、減るもんじゃねぇし。ここがいいんだ、オレさまは」

 おしまい
【あとがき】
2つ目の物語作品です。ばばばっと文章を書いて、絵を描いて…絵は、背景のない簡単なものにしました。これだと背景付きの絵より格段に楽で、短時間で描けました…。ほっ。
読み直してみると、やっぱりいろいろ気になるんですが、アップしちゃえ〜!
なんてゆうか、文章で「間」とか「気持ち」とか「雰囲気」とかを伝えようとするのって難しいんですね〜。すぐに行き詰まってしまいます。慣れたら楽になるのかなぁ?
今は表現しきれてないと思いながらも、とりあえずアップしちゃいます。

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